危機的状況の中の希望

個人的に現代に生きる作家で一番影響を受けているであろう村上龍氏がニューヨーク・タイムズへの寄稿文を寄せていた。内容は以下のリンク先を直接参照して頂くとして。

危機的状況の中の希望
http://www.timeout.jp/ja/tokyo/feature/2581/

彼の小説を貪るように読んだのはフランスワールドカップの頃だっただろうか。それまで自分は小説の楽しみを知らなかった。本に接しない生活だったわけではない。学生時代は司書のアルバイトをしていたこともあり、比較的本に接する環境だったとも言える。その頃は趣味の分野の本や実用書、雑誌を呼んでいた程度。図書館の本の背表紙番号「9」の棚の小説は、どんなベストセラーといえど手にすることはなかった。

9.11テロの頃、個人的に自暴自棄になりかけた時期があり希望が欲しかった。そんな当時、一番輝いて見てたのは当時ヨーロッパセリエAで活躍していた中田英寿氏だった。彼がW杯の時に持参した小説が村上龍氏のイン ザ・ミソスープだと何かの記事で読んだ。そこで始めて村上龍氏の小説に興味を持った。

自分は何でも興味を持ったら一気に深く掘り下げるタイプで。その分ある一定レベルのところまで知的好奇心が満たされると、それ以上の探求をしない飽きっぽい側面もあるのだが。当時発行されていた村上龍氏の本はすべて読んだ。ブックオフに行っては、村上龍氏の本を買いあさった。

何が私の心に響いたのか不明だが夢中になった。村上龍の小説・世界感をキーワードで表すと「(圧倒的に魅力的のある)女性、リスク、情報、恥、そして個人」であろう。一貫している。良い意味での生活感のなさ。それがクールな都会、キラキラした未来を想像させたのかもしれない。

普段から小説を読み込んでいるような人はどういう感想を持つのかわからないが、私にとっては始めて真正面から接する小説家だった。始めて読む長編小説に夢中になり、エッセイも読んだ。村上龍氏の良いところは多様性のあるところだと思っていて(流行りものに飛びつくと批判的な意見もあるが。)氏はその時興味をもったテーマをとことん追求する。ある時はテニスであり、ある時はサッカーであり。そして近年は経済であったり。そんな複眼的な視線が自分の好奇心を引き立てた。氏から受けた影響は大きい。経済・ファイナンスに興味を持ち始め、今では株式投資もするようになった。欧州サッカーを見るようになり、一層の魅力が分かった。今でもメールアドレスは氏の小説の登場物から頂いたものだ。(きっとみんな何の意味かわからなかっただろうが…)

『この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない』小説「希望の国のエクソダス」の中のフレーズだ。村上氏がこの小説を書いたのは平成10年から12年。村上氏は文庫本のあとがきで『この小説はファンタジーだが、この小説が成立するためのさまざまな社会的要素は現在に至っても変化がない』と記している。そんなこの国が希望以外のすべてを失ったのかもしれない。でも希望がある。きっと日本は復興する。2011年3月11日午後2時46分、この日時は後年語り継がれる時代を変えた一日として記憶されることだろう。

いまだ村上龍氏の小説を読んだことがない人は一度読んでみてほしい。とっかかりとしては以下の小説が読みやすいかもしれない。名作です。
五分後の世界 (幻冬舎文庫)
ヒュウガ・ウイルス—五分後の世界 2 (幻冬舎文庫)
希望の国のエクソダス (文春文庫)
愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)
愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)